本年度の締めくくりとして、大岡山で春季ゼミを開催しました。今回は他研究室からMさんも参加され、指定図書(オープン・サービス・イノベーション)の読み合わせにより、サービスサイエンスをより深く理解することができました。
日時: 3月5日(土) 10:00 – 18:00
会場: 東京工業大学 西9号館 演習室
指定図書: オープン・サービス・イノベーション-生活者視点から、成長と競争力のあるビジネスを創造する-ヘンリー・チェスブロウ(著)
タイムテーブル:
10:00~10:30 序-1章 Aさん発表
10:30~11:30 2章 Kさん発表
11:30~12:30 3章 Eさん発表
– 昼食 –
13:30~14:30 4章 Iさん発表
14:30~15:30 5章 Mさん発表
– 休憩 –
16:00~16:45 6-7章 Kさん発表
16:45~17:30 8-9章 Tさん発表
17:30~18:00 10章 Aさん発表
以下、発表者のサマリーです。
序 章 オープン・サービスとイノベーション
第1章 オープン・サービス・イノベーションの必要性
IBMの基礎研究部門を率いるポール・ホーンはIBMにおける研究活動についてこう述べている「収益の大半を占めるサービス関連の研究でなければ、研究活動は今後、つづけていけない」。
IBMがコンピューターやソフトウェアの製造からビジネスコンサルティングサービスへシフトしていることを受けての発言である。知識が世界に行き渡り、新興国がグローバル市場で勃興し、先進国が経済的に頭打ちになっていることを背景に、世界の製造業は「コモディティ・トラップ」に陥っている。
コモディティとは製品の価値ではなく費用ベースで売られる製品のことで、つまり低収益で企業に利潤をもたらさない製品である。あらゆる製品がコモディティ化圧力にさらされることにより、先進国の経済は大きな脅威にさらされている。これが製造業がサービス業にシフトすべき要因である。冒頭の発言はそのような経済状況を念頭に置いて行われたものである。
しかし、そこに問題がある。新製品やテクノロジーの開発と異なり、サービスにおけるイノベーションがどのように行われるかについてはあまり知られていない。本書はそこを解き明かすことを目的にしている。
サービス・イノベーションにおけるポイントは4つあると著者は述べている。
・サービスを、成長し続けるためのビジネスとして捉える
・顧客と共同してイノベーションを創出する
・自社のビジネスを取り巻く第三者の専門家がオープン・イノベーションを加速する
・サービスイノベーションのための新しいビジネスモデル
本書は2部構成となっており、第2章から第5章は上の4つのポイントを順に説き明かす。第6章から第9章はサービスイノベーションの事例について紹介し、第10章で全体を統括する。
第2章 ビジネスをサービスとして考える
サービス活動と異なり、製造活動では製品が売られると提供者の仕事は完了し、製品を使って理想的な結果に到達する責任は利用者にある。一方、サービス活動では顧客のニーズが満たされるまで仕事は終わらず、顧客と長い関係性を築く、顧客生涯価値(Life Time Value)が重要となる。従来のバリューチェーンでの製品中心の考え方ではなく、サービス志向の経済に合わせて見直していこうという流れになってきている。
第3章 顧客との共創
製品ビジネスにおいて、製品は個体間で共通のスペックに準じ、同質性を持つ。サービスは、製品ビジネスとは異なり、サービスが提供される状況や顧客ごとのニーズによって質や内容が異なる。
逆に言えば、サービスは、顧客ごとのニーズに応じて質や内容を変えることが可能であり、このような操作によって顧客の満足度を向上できる。顧客行動の観察によって、顧客自身が認識していない顧客ニーズが掴め、サービスの向上に役立つ。
また、顧客の積極的な参加によって、サービスの質や内容は向上し、結果として顧客の満足度も向上する。
第4章 社外にサービス・イノベーションを広げる
第5章 サービスでビジネスモデルを変換する
企業が新たなビジネスモデルを創出(innovating)することの重要性とその難しさ(difficulty)を吟味(examine)する。また、新たなサービスビジネスモデルを創出可能な組織のあり方や、自社ビジネスに直接、あるいはその周辺に対して投資を行う第三者を惹きつけるサービスプラットフォームの養成に関する知見を導き出す。
< サービスイノベーションのためのビジネスモデル構築のポイント>
- (カスタマーにとっての)固定資産の一括購入費用を、長期にわたる低額のランニングコストに変換する。そのためにサプライヤーが固定資産に投資→様々な方法で回収可能。
- ターゲットとなるカスタマーを再検討する。医療ビジネス→医師or患者?
- バリューチェーンを再設計する。販売以外の利益体系(保守メンテ)
- 請求方法の変更。換価価値ではなく、トータルソリューションを提供。
- より大きなエコシステムへの接続(オープン/クローズド、ダイナミックケイパビリティの議論)。
< ビジネスのドミナントロジック>
- 自社ビジネスの「ヒューリスティクス」(慣性)の方向に適合した、強みを活かすビジネスを志向することが重要。ゼロックスの事業ベクトル:法人・大規模主体、デル:BTO主体
- 一方で慣性志向を強めすぎた場合、組織の特殊化→硬直化を招き、新ビジネスへの展開や軌道修正が困難となる可能性も。
< ビジネスモデルを変換するツール>
- オスターワルダーによるマッピングアプローチ:代替案の構想/他者モデルとの比較に有用
- IBMのコンポーネント・ビジネスモデル:内在するプロセスの明確化、活動実態と組織の整合性の確認と改善
- アクション・バイアス:市場への行動実践→フィードバックからその有効性を検討(ベンチャー的)
※変化を先導する企業内リーダーシップが要求される
<サービスビジネスモデル実現のための組織再編>
- 規模と範囲の経済性を得るための企業のセットアップ
最適化とカスタマイズの両立:フロントエンドとバックエンドの分離と役割明確化 - ビジネスモデルに合ったプラットフォームの育成
自社ビジネスのオープン化の推進:「コモディティ」から「プラットフォームビジネス」への昇華 - プラットフォーム構築のためのオープン化の推進
サプライヤー・カスタマーとの接続拡張:エコシステム構築によるビジネスモデルの統合
第6章 大企業のオープン・サービス・イノベーション
第7章 中小企業のオープン・サービス・イノベーション
第8章 サービス・ビジネスのオープン・サービス・イノベーション
第9章 新興経済国でのオープン・サービス・イノベーション
第10章 オープン・サービス・イノベーションの今後
イノベーションの歴史を振り返ると、かつては農業、ついで製造業でイノベーションがおき、生産性が大きく向上した。次はサービスの生産性を向上させなければならない。しかし、ここで問題が生じる。サービスという無形で直接測ることができないものののイノベーションは現実に可能なのかということである。
この状況での提言は、サービスイノベーションが大学で研究されなければならないということである。企業は短期的なプロジェクトに注力しているので、長期的な革新は大学が担うべきである。ただ、実際はそうはなっていない。ビジネスや経済の考え方がモノ中心(グッズドミナントロジック)になっているばかりでなく、研究者が保守的で変化を望んでいない現状がある。われわれには学際的なアプローチが求められている。
また、現在のサービスは縦割りで考えられているせいでイノベーションが生まれない。サービスイノベーションには複雑に組み合わされた知識が関与している。それぞれの知識を組み合わせて一貫したシステムをどう作るかが重要である。サービス中心のビジネスでは、製品中心のビジネスと違って、統合をサービス提供側が引き受けることで顧客に恩恵を与えられる。統合によって社会の生産性を上げることができるはずである。
これらのオープン・サービス・イノベーションの取り組みによって企業はコモディティ・トラップを克服して成長し続けることができるのである。