サービスサイエンスに関して

 「サービスサイエンス」 あるいは 「サービス科学」 という言葉をご存じだろうか? ここで言うサービスとは、いわゆる第三次産業の「サービス業」のみをさすのではなく(それを含めた)、社会・経済における無形性の価値の創造とマネジメントに関係するものである。 以下、情報処理47巻5号 2006年5月からの抜粋である。

 「サービス・サイエンス」という言葉が米国IBMのアルマデン研究所で産声を上げてから1 年以上が経過した.(2006年時点の話) サービス・サイエンスは,サービス・ビジネスの新市場をリードする米国のみならず,社会科学の先進国であるヨーロッパ,経済の成長が著しい中国・インドなどのアジア諸国,そして新たな経済の成長基盤を模索している日本においても,大きな反響を呼んでいる.これらの国々では,大学における研究・教育にサービス・サイエンスをどのように取り入れるか議論されている.また,IT企業をはじめとする先端企業およびサービス・プロバイダとしての新興企業においてはサービス・サイエンスによってどんな新たな価値がもたらされるのかが検討され始めている.さらに,各国の政府行政機関においては21 世紀の産業構造の変革の中でのサービス・サイエンスが果たす役割が議論され始めている.

 なぜ,サービス・サイエンスが世界規模で注目され始めているのであろうか? それは,サービス・サイエンスが,単に「サービス」を科学することにとどまらず,サービスを包含する「ビジネスと企業と社会」全体を科学するという,より広義な問題設定を必然的に行っているからだと思われる.すなわち,サービス産業を科学することは,サービス業を含めた全産業の本質的特長を捉え洞察することなしでは済まされないし,サービス企業を科学するとは,一般的な企業組織やビジネスモデルの比較検討の上でのみ可能であるし,また,サービス業務を科学するとは,人間一般に関する深い見識がなければできないことだからである.

 サービス・サイエンスは,“Services Sciences, Management and Engineering” を簡略したものであり,サービスにおける基礎学問としての位置づけを意図するものである.サービスにおける生産性(提供者側のメリット)と質の向上(利用者側のメリット)をはかり,イノベーションによって新しい市場の創造を行って経済を活性化することを目指し,勘と経験に頼っていたサービスを,科学的に体系化された知識と方法によるアプローチに変えるために知識体系を統合する枠組みを与えることが,サービス・サイエンスの役割である.
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 「サービス」を中心としたビジネスでは「物財」中心のビジネスよりも「知識」や「情報」の持つ役割がきわめて大きい.サービスは情報であるともいえる.このことより,サービス・ビジネスの時代には,情報処理技術の新たなそして大きな役割が期待できると思われる
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 サービス・サイエンスはITとビジネスの密接な関係を,数学,情報科学,経済学,心理学などを土台として研究し,その価値を社会に還元する学問であるということができる.
(「サービス・サイエンスについての動向」, 日高一義, 情報処理47巻5号 2006年5月)