Category Archives: サービス科学研究会

2016年度 第3回サービス科学研究会B(2016.6.25)

講演
講師:(株)富士通研究所 丸山文宏先生
テーマ:「サービスに共通の切り口によるアプローチ~サービス学の確立に向けて~」
研究分野
現在は富士通研究所でAIに関する仕事に従事しているが、サービス学への関心は昔からある。サービス科学における主な研究分野は、サービスイノベーションのメカニズムとサービスプロセス分析である。
研究アプローチ
業種や業態を超えて「サービスはひとつ」であるという概念のもとに、スペクトル(例えば、下記のようにマインドと仕掛けのスペクトル)の中にそれぞれのサービスを位置付けるアプローチ、および、サービスの共通要素(例えば、下記のようにサービスのプロセス)に着目して体系的な分析および知識の共有・再利用を可能にするアプローチを取っている。
研究内容
1.サービスをスタッフのマインドの部分とそれをサポートする仕掛けの部分に分解し、これをマインドと仕掛けのスペクトルとして捉える。「成功しているサービスでは,スタッフのマインドを刺激する施策とサービスを支える仕掛けを強化する施策を繰り返し、スイッチバック式にサービスのレベルアップ(イノベーション)が実現している」という仮説を立て、成功しているサービス企業(加賀屋および良品計画)が行ってきた施策を精査することにより検証した。
2.サービスのプロセスを一般化し(参考:MIT Process Handbook)、以下の特徴を持つ「一般化サービスプロセス(Generalized Service Process; GSP)」を定義する。
(a) 顧客側のプロセスと提供者側のプロセスから成り、
(b) 両者のプロセスは文脈自由文法で記述され、
(c) 両者のプロセスの間には接着する部分があり、
(d) 個々のサービスのプロセスは一般化サービスプロセスの文法を特殊化した部分文法で記述される。
これにより、①サービスのプロセス分析ができる。②他のサービスの施策、評価基準、知見、ノウハウ、アイデアを共有・再利用できる。③新規サービスのプロセスデザインに利用できる。

2016年度 第2回サービス科学研究会A(2016.5.14)

講演
講師:京都大学 経営管理大学院 山内裕准教授
テーマ:「闘争」としてのサービス:顧客インタラクションの研究
研究分野
サービスデザインが主な研究分野である。サービスの幻想をひも解くことをテーマに、顧客便益、価値共創だけではなく、「サービスとは闘いである。」という独自の観点から、サービスの本質とは何かを研究している。
研究背景
サービスにはおもてなし、居心地の良い環境、顧客ニーズを満たすことなどが大切であると考えられているが、実際の接客現場では闘争(struggle)が本質的には起きているのではないか。
実験
複数のある飲食サービス店において、店側と顧客のサービスエンカウンターで、実際に起こっているインタラクション(やり取り)の映像を分析する。
<主な分析方法>
・エスノメソドロジー(社会の秩序を解明する社会学)
・会話分析
結論
顧客を満足させようとすると、顧客は満足しなくなる?
続きは関連著書でどうぞ。
関連著書
「闘争」としてのサービス 顧客インタラクションの研究

  • 著者/山内 裕
  • 発行所/中央経済社
  • 価格/2600円(税抜)
  • 2016年度 第1回サービス科学研究会B(2016.4.23)

    講演
    講師:首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 木見田 助教授
    テーマ:「高等教育を対象とした提供者のコンピテンシーと受給者のリテラシーの向上による共創的価値の実現方法の開発」

    • プロジェクト概要
      平成25年度採択の問題解決型サービス科学研究開発プログラムの1つで、教師側のコンピテンシーと学習者側のリテラシーの双方を高めることで、目標とする学習成果を達成するサービスの実現方法を研究する。プロジェクトは終盤で、残り半年でまとめあげる必要がある。
    • 研究概要
      高等教育でのサービスの価値共創は「提供者が持つ知識と方略」、「受給者が持つ知識と方略」とが互いに交錯し合って発生し、学習成果や満足度などの価値を形成する。その形成には提供者のコンピテンシー(教師が潜在的に持つ、優れた成果の原因となる特性や能力)と学習者のリテラシー(学習者の持つ効率的、効果的に学習する能力)が重要な要因となる。その2つの特性はメタ認知というプロセスがキーとなり、メタ認知を促進することで向上すると考えられる。
      ★合意形成プロセス

      1. 学習者自身のメタ認知を促す。
      2. 学習者が自身の教師をメタ認知し、コンピテンシーを調整する。
      3. 教師が自身と学習者をメタ認知し、コンピテンシーを調節する。

      ★ツール開発
      学習状態マップ、学習状態マトリクスを開発し、教師と学習者のメタ認知の促進に活用した。

    • 教育現場への適用
      M-skpye Project:大学におけるTOEFLの学習者を対象に実践研究を行った。

    2015年度 第9回サービス科学研究会(2016.2.20)

    講演
    講師:明治大学 大学院 グローバル・ビジネス研究科 戸谷圭子 教授
    テーマ:価値共創の実現〜ビッグデータによる波及効果測定
    2012年採択のJSTのプロジェクトの1つで、研究テーマは「顧客と従業員、従業員と企業、顧客と企業の間で、どのような価値が生み出され、それらをどのような尺度で評価すればいいのか」という共創価値の評価尺度の作成に取り組んでいる。現在はアウトレンジ期間で外部への発表が主である。
    研究の背景は、サービス評価尺度の作成は対象や時期をいろいろ変えて検証を行わなければならないため、重要であるにもかかわらず誰もやっていない。評価尺度を作成するのにSERVQUALは10年、ブランド・パーソナリティは15年以上かかっている。目的は価値共創における共通の評価指標を作成し、研究基盤を開発することである。

    2015年度 第8回サービス科学研究会(2016.1.23)

    講演
    講師:一橋大学 大学院 国際企業戦略研究科 藤川佳則 准教授
    テーマ:サービス・グローバリゼーション 価値共創の知識移転
    最先端のサービス・マーケティングを「Trends」「Perspectives」「Insights」の三つのカテゴリから解説して下さった。また、研究事例として、日本公文教育研究会がKUMON学習システムを世界に発信している現状と研究事例を紹介して下さった。
    ■Trends:いま世界規模で起きている現象
    ■Perspectives:サービス・グローバリゼーションを捉える
    ■Insights:公文教育研究会との共同研究から

    2015年度 第7回サービス科学研究会(2015.12.19)

    講演
    講師: 東京大学 人工物工学研究センター 原辰徳 准教授
    テーマ: 観光とサービス学
    Rosetta(ロゼッタ)はRISTEX(社会技術研究開発センター)の平成22年度採択プロジェクトで、3年間のプロジェクトは終了しており、現在は社会実装の段階である。プロジェクトは合同で行われ、東大人工物研究科が統合モデルを、首都大学が顧客経験を、東大システム創成研究科が設計生産をそれぞれ担当し、旅行会社の協力を得て行われた。
     

    2015年度 第6回サービス科学研究会(2015.11.21)

    「価値創成クラスモデルによるサービスシステムの類型化とメカニズム設計理論の構築」

    東京大学 西野成明昭准教授

    本研究はRISTEX(社会技術研究開発センター)のプロジェクトであり、現時点で2年目の終盤、残りは1年となっている。進捗状況は理論がようやく固まって、来年度から本格的に実験(データ取得、分析)に入るところである。
    背景:
    現在ではサービスの研究をするときに、構造の複雑さゆえにサービスを個別に分析するのが一般的である。しかし、それでは根底にある問題の構造と複雑さの科学的な理解が困難となり、サービス学の学問領域としての発展が阻害される可能性がある。そのため、もっと科学的見地から、業種に問わないサービス構造の整理と設計理論の構築が必要と考える。
    目的:
    サービス設計に必要な基礎理論(価値創成モデル)を構築する。それにより実サービスの類型化を行いサービスシステムとさまざまな経営指標の関連性を整理し、新指標の構築を目指す。また、最終的には存在するサービスをクラスⅠ(提供型価値)、クラスⅡ(適応型価値)、クラスⅢ(共創型価値)に分類し、それぞれにのクラスにおいて実験を行い、すべての結果を統合することによってサービス設計理論を構築したい。
    概要:
    1.事例収集とサービス類型化
    客観的なサービス構造を明確化する方法を提供し、サービスの有効性を評価するための新指標(GDPのような)を構築する。それにより、サービス設計時における問題の整理と学術的基盤の構築につながり、より良いサービスが創出されるはずである。そのために、まず価値創成モデル(上田, 2006)を用いて、実社会のサービスシステムのネットワークトポロジーを明らかにして、サービス構造の類型化を行う。調査対象は小売業(スーパー)に限定した。類型化のために、サービスの状況や関連データを分析し、小売業の基本構造を作成し、それをもとにクラスⅠを「every day low price、標準化、自動発注など」クラスⅡを「品揃え価格が柔軟で、消費者の要望に応えるなど」クラスⅢを「ライフスタイル提案。消費者と一体となったPBなど」とクラス分けの判別基準を作成した。次にそのクラス分類基準をもとにアンケートを作成、301社の有効回答よりクラスター分析を行い、ネットワーク構造の類型化を抽出した。その結果、6つのクラスターを抽出できた。クラスタA(クラスⅢ型)、クラスタB(クラスⅠ型)、クラスタC(上流クラスⅠ、下流クラスⅡ型)、クラスタD(クラスⅡ型)、クラスタE(クラスⅠ中心)、クラスタF(上流クラスⅡ、下流クラスⅠ型)。以上のモデルを用いて、財務データの分析を行い、クラスタ毎の特性を比較した。その結果、小売業にはクラスⅡ戦略が多い、クラスⅢ戦略を積極的に行う企業群が売り上げが高い、クラスⅠ戦略を徹底するところは従業員が多いということが分かった。
    2.サービス設計に資する理論の構築
    コアとなる理論はメカニズムデザイン(ゲーム理論の応用)を利用し、実験経済学に基づく経済実験により分析を行う。製品の生産設計はプロセスを確定することであるが、サービスの設計はサービスメカニズム(サービスにおいてステークホルダー間の相互作用の形を決定づけるルールや構造のこと)を確定することと捉える。その思想に基づき、経済実験により、設計に資する基本原理の構築や共通する性質を明らかにしてサービス設計理論を構築する。それにより、現実の複雑なサービスをモデル化することができると考える。
    メカニズムデザインとはf(社会的選択関数)によって得られる帰結を実現できるメカニズムを設計することが目的で、耐戦略性、個人合理性、パレート効率性などの優れた特性を有するメカニズムを構築することを目指している。このメカニズムデザインに基づき、価値創成モデルのクラスⅠ、クラスⅡ、クラスⅢそれぞれについて定式化した。その結果、クラスⅠはfとg(帰結関数)で決定し、クラスⅡはfとgに加え、s(プライヤーの戦略関数)の変動する状況下で決定し、クラスⅢでは様々な要素が変動する状況下で、fとgを提供者と受給者の相互作用を通じて決定するものであると考えた。
    ディスカッションQ&A:
    Q1.上田先生のもともとの専門は?Slide 12
    A. 金属の切削に関するメカニズムを研究し、生産システムの研究を行っていたが、マスプロダクションや品質管理などによる製造は限界が来ていると考え、顧客志向型のボトムアップ製造を提唱し始めた。(1996)
    Q2. 価値創成の価値の定義がよくわからない。顧客の持つ価値のことなのか。
    A.顧客の持つ価値とは限らない。ノードが持つ価値がそれぞれあるはず。顧客の価値との関連調査として、JCSIのデータを取得できそうなのでそれと参照比較することを考えている。
    Q3. 私の持つサービスの考え方と違う。一般的には顧客の知覚が主体の分析を行う。例えば、料理提供のプロセスに関する議論はあるが、その料理の中身(コンテンツ)に関する議論がない。
    A.顧客の嗜好や満足など心理学などの部分は専門の研究者にゆだねる。これらはサービスから切り離せないと考えられているがあえて切り離している。
    Q4. 価値創成モデルのクラス分けがよくわからない。もっとわかりやすい具体例はあるか?Slide 13,14
    A.ファストレストランの例ではクラスⅠがマック(ほぼ固定されている)クラスⅡがサブウェイ(顧客がサービスを変更できる)クラスⅢが茶道(提供者と飲む人のインタラクション)
    Q5.小売業の基本構造の信ぴょう性は?Slide 19
    A. 業界全体を見渡せモデルを評価できる専門家にも相談し、妥当であるとのコメントをいただいている。
    Q6. すべてのサービスがClassⅠ~Ⅲに対応するのか。Slide 21
    A.すべてのサービスがどれかのクラスに分類される。
    Q7.(P/S)の表記は同時(同じ?)を意味するのか?Slide 22
    A.PとSの思惑が一致しない場合もあるが、定常状態ではこうなる。サービスエンカウンターを意味する。
    Q8.クラス分類は提供者側の意図により作られたものなのか、必然的にそうなったのか。Slide 25,26,27
    A.現時点ではワンポイントのデータをアンケートによって取得しているため、提供者側の意図であると考えられる。しかし、経年で形を変えながら安定的な状態に収束したものとして捉えることができるならば、必然的な結果と捉えられるかもしれない。
    Q9.別の年の財務データも必要なのではないか。経年変化を追う必要があるのではないか。Slide 31
    A. その必要性はわかっているが、現時点では対応できないので、経年変化を見るような時間軸がとれていない。データを年々取得して追っていくのは難しいので、その時点での状況分析だけである。
    Q10.メカニズム設計のfとは何か?Slide 41
    A.一般的には社会がそれをベストと考えるものである。例えば、パレート最適解と考えても良い。サービス設計の局面としてみれば、提供者側が提供しようとする理想的なサービスそのものと言える。
    Q11.主な分析方法は?

    A.ゲーム理論を使う。メカニズムデザインの場合は計算が複雑でそれだけでは説明できない部分は経済実験を用いて分析する。たとえば、腎臓移植の患者とドナーのマッチングで、親類でもマッチするとは限らず、理論だけでは探すのが難しい。