2017年度 第25回ゼミ(2017.11.28)

研究状況報告(発表者:上田さん)

「サービス品質のHygiene Factorと顧客志向に関する考察」
来年3月の学会発表に向けたテーマを上記とし、インフラ産業を題材に、サービスを当たり前サービス(Hygienes)と魅力的サービス(Enhancers)とに区分し、当たり前サービスの性質と企業の顧客志向を考える。
サービスの分子モデルを応用して、当たり前品質サービスはコア・サービスのみに存在し、魅力的サービス品質はコア・サービスと周辺サービスにも存在するという概念を整理した。
インフラ産業はコア・サービスが比較的明確で、かつ、顧客視点では当たり前品質サービスとしてのとらえも強い。一方で社会的規制の多い産業でもある。規制産業である反面、保護政策がとられてきた産業が規制改革と自由化の中で顧客志向を高めていく様子を、通信企業を例にアニュアルレポートをテキスト分析を用いて検証した。
インフラ産業のサービスは、デリバリープラットフォームとなる配送電などのネットワークシステムと、顧客接点になる小売や運送業務のレイヤーがあるが、インフラの当たり前サービスの不具合はその多くがデリバリープラットフォームで発生している。デリバリープラットフォームの不具合は未然防止(Failure Prevention)のアプローチがとられているが、当たり前サービスに求められる品質は高位で、そのコスト管理は課題の一つである。
日本学術会議による工学システムの安全基準のあり方が取りまとめられた。未然防止を重視し、技術的かつ経済的に実現可能なものでなくてはならない、という安全目標の基本的な考え方が、当たり前品質の不具合の発生源となっているデリバリープラットフォームにも適用できるのではないかと考えた。未然防止は将来予測をもとに実行されるため、それが本当に効果があったのかどうかを検証するのは難しい。これは、品質にかけるコストの効果も分かりづらいということでもある。当たり前品質の目標は安全目標と同様に、目指すのは不具合発生ゼロであるが、現実的には技術的かつ経済的に実現できる目標が必要であり、それによって品質とコストのマネジメントをしていくサイクルを考えてみたい。
いただいたご意見
サービスは静的ではなく、動的である。サービスの品質は顧客によって相対的に決まる。
工学的な安全目標とサービス品質目標の違いは、顧客に応じて目指すべき目標が変わること。例えば経験値(CE)などをもう一つの軸にとって考えることも必要ではないか。
コア・サービスのとらえ方も顧客によって違う。

研究状況報告(発表者:斉さん)

『ユーザーイノベーション消費者から始まるものづくりの未来』(小川,2013)におけるリードーユーザー、消費者イノベーターの概念定義や、消費者ニーズを把握する手法としてsalesforceのユーザーコミュニティが該当するクラウドソーシングが有効である理由を紹介した。
また、ユーザーがイノベーションを行う動機の1つである情報の粘着性の概念を紹介した上、ソフトウェア業界のように、ユーザーが様々な業界に存在するがために、ベンダーがすべてニーズを把握することが困難、すなわち粘着性の高い業界では、仲介者(コンサルタント、SIer)が情報の粘着性を緩和し、ユーザーイノベーションを促進する役割を果たしているという仮説を提出した。SalesforceのコミュニティIdeaExchangeにおける仲介者の役割を考察することで、この仮説を検証したいと考えた。
頂いたご意見としては、仲介者のパターン(コンサルか開発者か)を分けて考察したほうがよいのでは、またsalesforceによって採用されたアイデアと却下されたアイデアにおいて、専門家がどのタイミングで議論に参加しているかを考察できれば、専門家が意思決定により大きな影響を与えていることが言えるのではないかなどのご指摘があった。