2015年度 第6回サービス科学研究会(2015.11.21)

「価値創成クラスモデルによるサービスシステムの類型化とメカニズム設計理論の構築」

東京大学 西野成明昭准教授

本研究はRISTEX(社会技術研究開発センター)のプロジェクトであり、現時点で2年目の終盤、残りは1年となっている。進捗状況は理論がようやく固まって、来年度から本格的に実験(データ取得、分析)に入るところである。
背景:
現在ではサービスの研究をするときに、構造の複雑さゆえにサービスを個別に分析するのが一般的である。しかし、それでは根底にある問題の構造と複雑さの科学的な理解が困難となり、サービス学の学問領域としての発展が阻害される可能性がある。そのため、もっと科学的見地から、業種に問わないサービス構造の整理と設計理論の構築が必要と考える。
目的:
サービス設計に必要な基礎理論(価値創成モデル)を構築する。それにより実サービスの類型化を行いサービスシステムとさまざまな経営指標の関連性を整理し、新指標の構築を目指す。また、最終的には存在するサービスをクラスⅠ(提供型価値)、クラスⅡ(適応型価値)、クラスⅢ(共創型価値)に分類し、それぞれにのクラスにおいて実験を行い、すべての結果を統合することによってサービス設計理論を構築したい。
概要:
1.事例収集とサービス類型化
客観的なサービス構造を明確化する方法を提供し、サービスの有効性を評価するための新指標(GDPのような)を構築する。それにより、サービス設計時における問題の整理と学術的基盤の構築につながり、より良いサービスが創出されるはずである。そのために、まず価値創成モデル(上田, 2006)を用いて、実社会のサービスシステムのネットワークトポロジーを明らかにして、サービス構造の類型化を行う。調査対象は小売業(スーパー)に限定した。類型化のために、サービスの状況や関連データを分析し、小売業の基本構造を作成し、それをもとにクラスⅠを「every day low price、標準化、自動発注など」クラスⅡを「品揃え価格が柔軟で、消費者の要望に応えるなど」クラスⅢを「ライフスタイル提案。消費者と一体となったPBなど」とクラス分けの判別基準を作成した。次にそのクラス分類基準をもとにアンケートを作成、301社の有効回答よりクラスター分析を行い、ネットワーク構造の類型化を抽出した。その結果、6つのクラスターを抽出できた。クラスタA(クラスⅢ型)、クラスタB(クラスⅠ型)、クラスタC(上流クラスⅠ、下流クラスⅡ型)、クラスタD(クラスⅡ型)、クラスタE(クラスⅠ中心)、クラスタF(上流クラスⅡ、下流クラスⅠ型)。以上のモデルを用いて、財務データの分析を行い、クラスタ毎の特性を比較した。その結果、小売業にはクラスⅡ戦略が多い、クラスⅢ戦略を積極的に行う企業群が売り上げが高い、クラスⅠ戦略を徹底するところは従業員が多いということが分かった。
2.サービス設計に資する理論の構築
コアとなる理論はメカニズムデザイン(ゲーム理論の応用)を利用し、実験経済学に基づく経済実験により分析を行う。製品の生産設計はプロセスを確定することであるが、サービスの設計はサービスメカニズム(サービスにおいてステークホルダー間の相互作用の形を決定づけるルールや構造のこと)を確定することと捉える。その思想に基づき、経済実験により、設計に資する基本原理の構築や共通する性質を明らかにしてサービス設計理論を構築する。それにより、現実の複雑なサービスをモデル化することができると考える。
メカニズムデザインとはf(社会的選択関数)によって得られる帰結を実現できるメカニズムを設計することが目的で、耐戦略性、個人合理性、パレート効率性などの優れた特性を有するメカニズムを構築することを目指している。このメカニズムデザインに基づき、価値創成モデルのクラスⅠ、クラスⅡ、クラスⅢそれぞれについて定式化した。その結果、クラスⅠはfとg(帰結関数)で決定し、クラスⅡはfとgに加え、s(プライヤーの戦略関数)の変動する状況下で決定し、クラスⅢでは様々な要素が変動する状況下で、fとgを提供者と受給者の相互作用を通じて決定するものであると考えた。
ディスカッションQ&A:
Q1.上田先生のもともとの専門は?Slide 12
A. 金属の切削に関するメカニズムを研究し、生産システムの研究を行っていたが、マスプロダクションや品質管理などによる製造は限界が来ていると考え、顧客志向型のボトムアップ製造を提唱し始めた。(1996)
Q2. 価値創成の価値の定義がよくわからない。顧客の持つ価値のことなのか。
A.顧客の持つ価値とは限らない。ノードが持つ価値がそれぞれあるはず。顧客の価値との関連調査として、JCSIのデータを取得できそうなのでそれと参照比較することを考えている。
Q3. 私の持つサービスの考え方と違う。一般的には顧客の知覚が主体の分析を行う。例えば、料理提供のプロセスに関する議論はあるが、その料理の中身(コンテンツ)に関する議論がない。
A.顧客の嗜好や満足など心理学などの部分は専門の研究者にゆだねる。これらはサービスから切り離せないと考えられているがあえて切り離している。
Q4. 価値創成モデルのクラス分けがよくわからない。もっとわかりやすい具体例はあるか?Slide 13,14
A.ファストレストランの例ではクラスⅠがマック(ほぼ固定されている)クラスⅡがサブウェイ(顧客がサービスを変更できる)クラスⅢが茶道(提供者と飲む人のインタラクション)
Q5.小売業の基本構造の信ぴょう性は?Slide 19
A. 業界全体を見渡せモデルを評価できる専門家にも相談し、妥当であるとのコメントをいただいている。
Q6. すべてのサービスがClassⅠ~Ⅲに対応するのか。Slide 21
A.すべてのサービスがどれかのクラスに分類される。
Q7.(P/S)の表記は同時(同じ?)を意味するのか?Slide 22
A.PとSの思惑が一致しない場合もあるが、定常状態ではこうなる。サービスエンカウンターを意味する。
Q8.クラス分類は提供者側の意図により作られたものなのか、必然的にそうなったのか。Slide 25,26,27
A.現時点ではワンポイントのデータをアンケートによって取得しているため、提供者側の意図であると考えられる。しかし、経年で形を変えながら安定的な状態に収束したものとして捉えることができるならば、必然的な結果と捉えられるかもしれない。
Q9.別の年の財務データも必要なのではないか。経年変化を追う必要があるのではないか。Slide 31
A. その必要性はわかっているが、現時点では対応できないので、経年変化を見るような時間軸がとれていない。データを年々取得して追っていくのは難しいので、その時点での状況分析だけである。
Q10.メカニズム設計のfとは何か?Slide 41
A.一般的には社会がそれをベストと考えるものである。例えば、パレート最適解と考えても良い。サービス設計の局面としてみれば、提供者側が提供しようとする理想的なサービスそのものと言える。
Q11.主な分析方法は?

A.ゲーム理論を使う。メカニズムデザインの場合は計算が複雑でそれだけでは説明できない部分は経済実験を用いて分析する。たとえば、腎臓移植の患者とドナーのマッチングで、親類でもマッチするとは限らず、理論だけでは探すのが難しい。